錦の百年

とある夏の日、あなたは気づくと見知らぬ屋敷にいた。

美しい襖、青い天井、色取り取りの玩具。
しかしそこに人はなく、時折響き渡る水音、
そして中央には堅く閉ざされた内蔵(うちぐら)がーー。
屋敷の正体は?なぜここにいるのか?
そして、あなたは日常に帰ることができるのか?

明治大正あたりの、絶妙な薄暗さと妖しさを再現したくて作った現代シナリオです。
シティっぽさもありますが、根本はクローズドの脱出となっております。
全ての謎が解かれることが最善ですが、解かれなくても薄っすらと背景は察せるようになっているはずです。
神話生物と戦闘する可能性は低いのですが、SAN値が削られる可能性のあるポイントが地味に多いのでお気をつけください。


0.シナリオ諸元

推奨技能:〈目星〉〈聞き耳〉〈
 このシナリオは作りたて〜数回探索を経験した探索者を想定としています。

1.シナリオ概略

とある晩夏の日、探索者たちは夏休みか、休暇か、あるいは里帰りといった理由から、とある地方の「源村(みなもとむら)」と呼ばれる村にやってきていた。
この村は、明治の頃こそ大きい商家の別宅があり栄えていたものの、交通網の変化により寂れてしまって久しい。
探索者はそこに一つしかない宿屋で顔を会わせ、この土地にここ数年住んでいる未海(みうみ)という男から、この辺りでは「金魚屋敷」が有名だという話を聞く。

そしてその日の夜、眠りについた探索者たちは目が覚めると古びた屋敷の前にいた。
そこは眠る前に話を聞いた「金魚屋敷」そのものだった。

2.シナリオの背景

今回の話において、神話生物の介入はない。全ては人の情念が生み出した怪異である。

かつて日本の東北地方にとある貿易商の別荘があった。当主には多くの愛人がおり、ある年にその一人である遊女が、錦という少女を産んだ。

田舎者の遊女が産んだ「錦」というその少女は、幼いながらも大層可愛らしく、不思議な色気を持っていた。
父親の愛を保つため、錦の母は錦にいつも笑顔で純粋に接するように言いつけた。
しかし、やがて父親は錦を性的な目で見るようになる。
その歪んだ愛情は、錦が育つにつれて顕著なものとなっていった。
彼は錦を表向きには病死とし、屋敷から出さず、誰とも遊ばせず、屋敷の内蔵に隠していた。
父親はゆくゆくは錦を不老にしようと考え、その為の術を必死に探していた。
そんな父親と錦を恨めしく思った錦の母は、村長の息子「清臣」を手引きし、錦と会わせることに成功した。
かくして出会った二人は、錦の母の思惑通り恋に落ちたのだ。

だが、その儚い想いは父によって無残にも踏み躙られる。
殺され秘密裏に処理される清臣。全てが終わった後で真実を母親から教えられ、生まれて初めて「怒り」を知った錦。
錦は秘密裏に家族を惨殺した。そして精神的なショックと無理が祟ったのだろう、彼女自身も十代後半という若さでこの世を去った。

しかし死してなお彼女の思いはかつて清臣と交わした「一緒に外の世界を見る」という約束に囚われており、二人の絶望と無念がこの異界を作り出したのである。

3.導入


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